交響詩 “シェエラザード”
Shéhérazade:
Trois Poèmes pour Chant et Orchestre sur les Vers de Tristan Klingsor





曲目
@ アジア(Asie
アジアよ,古くてお伽噺のような素敵な国。神秘の森の王女のように,幻想が眠る国。
今宵,人知れず船出したい。お前の許に。ああ行ってみたい。花咲き匂う島々へ,回教寺院の尖塔が聳えるダマスカスやペルシャの街へ。見たいのだ。美しい絹のターバンを。やぶにらみの貪欲な商人を。太鼓腹のシナの高官を。
そうして,長い年月の後,わたしの冒険の数々を話してやりたい。シンドバットのように・・
A 魔法の笛(la flûte enchantée
長閑な日陰に,お休みになるご主人様。しかし私はまだ眠れない。だって私には聞こえるの。悲しみと喜びの歌とを奏でる笛の音が。
吹いているのは私の恋人なのよ。格子窓へと寄れば,その音がひとつひとつ,私の頬に飛んできて,口づけするようだわ・・
B つれない人(l'indifférent
他国から来た若いお方。私の家の戸口で,あなたの唇は私の知らない長く素敵な唄を歌う。お入りなさい!
ああ,そうじゃない。あなたは行ってしまう。私は遠ざかっていくあなたを見送るの・・



概説 :


もともとはオペラとして1898年に構想されたものの結局『序曲』のみに終わった『シェヘラザード』を,1903年に,再度ソプラノ独唱と管弦楽のために構想し直して作曲された。ラヴェル28才の作。

同年1月,ラヴェルは,パリ音楽院作曲法科の学科試験に『弦楽四重奏曲』の第一楽章を提出するが,結果は不本意なものに終わり,パリ音楽院の席を失うことになった。また同年,彼は,カンタータ『アリサ(Alyssa)』で,4度目のローマ大賞へ挑む。しかし,これも落選という結果に終わった
*

当時,ワグネリアンでもあった画家にして詩人レオン・ルクレール(Léon Leclère: 1874-1966)は,アラビアン・ナイトから受けた感慨を,トリスタン・クランゾール(Tristan Klingsor=
右肖像)の変名で,『ルヴュ・ブランシュ』,『ペンの羽根(La Plume)』,『メルキュール』の各誌に連作として発表していた。1903年,その数は100に到達。彼はこれらを,『シェヘラザード(千夜一夜物語)』と題する詩集へとまとめた。ラヴェルは,新進芸術家の集まりである【アパシュ】でルクレールと親しい交流があり,彼のテクストをもとに『シェエラザード』を書き上げることを思いついたと思われる**

初演は1904年5月17日,国民音楽協会の同年度最終公演で行われ,好評を博した。後期ロマン派の甘美な響きを持ちながら,ラヴェル一流の異国趣味が全面に横溢した,初期歌曲における代表的な傑作のひとつと呼べるこの作品は,保守的な作曲家からも賞賛され,この初演を耳にしたダンディは,「これまでにラヴェルが書いた曲では,最も優れている」と述べたという。

自筆譜のうち,管弦楽版(41頁:「アジア」27頁,「魔笛」7頁,「つれない人」7頁)はテキサス大学オースチン校人文科学研究センター蔵。ピアノ版は不明。





注 記

* 尤も,ラヴェル自身も,この作品には満足していなかったらしく,ヴィニエスの日記には,ラヴェルが自分ではなくロジェ=デュカスが一等賞を獲ると思っていたと記されている。実際はラオール・ラパーラ(Raoul Laparra: 1876-1943)が優勝し,レイモン・ペック,ポール・ピエルネ(ガブリエルの兄)がこれに準じている。

** ラヴェルの求めに応じ,ルクレールは当時「アジア」,「魔笛」,「つれない人」の三編を朗読している。ラヴェルはこの際,『アジア』の詩の中の一節「シンドバッドのように,大事に守ってきたアラブの古いキセルを何度も何度も口へと運び・・(en conservant comme sindbad ma vieille pipe arabe de temps en temps entre mes lèvres)」の部分が,女性独唱には不釣り合いであると考え,「・・古いアラブの杯・・(en elevant comme sindbad ma vieille tasse arabe temps en temps jusqu'a mes lèvres)」に換えるように要求。ルクレールはこれを了承している。




Reference
ニコルス, R. 渋谷訳. 1987. 「ラヴェル−その生涯と作品」泰流社 (p. 113).
Larner, G. 1996. Maurice Ravel. London: Phaidon (p. 74).

Orenstein, A. 1991 (1975). Ravel: man and musician. New York: Dover Publications, pp. 38-40 / p. 224.







作曲・出版年 ■作曲:1903年
■出版:ピアノ版:1904年(アストルク: G. Astruc 社),デュラン社(1911年)
■出版管弦楽版:1914年(デュラン社)
※『アジア』はジャンヌ・アトー,『魔法の笛』はルネ・ドゥ・サン=マルソー夫人,『つれない人』はジジスモン・バルダック夫人に献呈。
編成 ソプラノ独唱,管弦楽(またはピアノ伴奏)
演奏時間 約 15分30秒
初演 1904年 5月17日,パリ・オペラ座新劇場。ジャンヌ・アトー(ソプラノ)アルフレッド・コルトー(指揮)国民音楽協会管弦楽団
推薦盤
(『シェエラザード』のみに対する評点です)

★★★★☆
"Mélodies"(EMI: 7243 5 69299 2 0)
Felicity Lott, Mady Mesplé, Jessye Norman (sop) Teresa Berganza (msp) Gabriel Bacquier, José van Dam (btn) Dalton Baldwin (p) Michel Depost (fl) Renaud Fontanarosa (vc) Michel Plasson (conductor) Orchestre du Capitole de Toulouse : Ensemble de Chambre de l'orchestre de Paris
小生少なからずこの曲に愛着があり,随分聴きましたが,以下にご紹介する推薦盤はそれぞれに美点欠点があり,この曲には決定打がないというのが正直なところ。そこで,ここではそれぞれの美点欠点について述べてゆきます。まずは,トゥルーズ管を長年率いてマニャールやオネゲル,ミヨーなど近代作家も録音してくれる嬉しいお方プラッソンの『シェヘラザード』。この盤の魅力は独唱者のベルガンサにあります。ビゼーのグラモフォン盤,ファリャのClaves盤などで有名な大物ですが,アンへレス盤などに比べると艶っぽくないものの,遙かに気品と包容力があり,暖かく,余裕を残した歌唱が素晴らしい。独唱に関してはこれを凌ぐ盤はありません。問題は若干,トゥルーズ管の響きが粗いことです。プラッソンはムラッ気のある指揮者ですが指揮そのものは周到で,彼の中では名演のほうに含まれるもの。歌曲ということで,あまりオケの響きに神経質にならないのであれば,これはまず真っ先に推薦できる作品です。

★★★★☆
"Ravel - Songs :
Shéhérazade / Trois Poèmes de Stéphane Mallarmé / Chansons Madécasses / Don Quichotte à Dulcinée / Cinq Mélodies Populaires Grecques"
(CBS: MK-39023)

Pierre Boulez (dir) Jessye Norman (sop) Heather Harper (sop) Jill Gomez (sop) José van Dam (btn) BBC Symphony Orchestra
ここに挙げた中では最も個性的な『シェへラザード』です。独唱を担当するヒーザー・ハーパーは他盤に比べると知名度は落ちますが,ラヴェルにありがちな柔和な艶っぽさを感じさせない,薄暗い影を帯びた声質が特徴的。間違いなくこれはブレーズの好みでしょう。現代音楽家のブレーズらしいそうした趣向は演奏面でも顕著。脱リズム,脱叙情を指向した,緊密で禁欲的な響きが緊張感を生み出しています。これを一番に推挙する人は恐らくいないでしょうが,それでも孤高の存在感を放つ,裏盤的存在の一枚であることに変わりありません。

★★★★☆
"Fanfare / Shéhérazade / Alborada del Gracioso / La Vallée des Cloches / Ma Mère l'Oye / La Valse" (EMI : CDC 7 54204 2)
Simon Rattle (cond) Maria Ewing (sop) City of Birmingham Symphony Orchestra
バーミンガム市立響の指揮者として,忽ち檜舞台に浮上したラトルの『シェへラザード』。この盤の魅力は,圧倒的に素晴らしいオーケストラと指揮にあります。やや遅めのテンポを取りつつ極めて正統な解釈で,説得力豊か。オケに関しては,これを凌ぐ盤はありますまい。音響の魔術師ラヴェルということで,オーケストラの伴奏の方に神経を集中して聴く向きには,この盤はぜひ聴いていただきたい一枚です。これで独唱がもしベルガンサだったらロイヤル・ストレート・フラッシュだったんですが,世の中上手くいきませんなあ。この盤の致命傷は独唱のマリア・アーヴィン女史。この曲を歌いこなすには些か力量不足。声が上ずり,裏返り,伸びず,明らかにいっぱいいっぱいなのが伝わってきます。

★★★★☆
"Alborada del Gracioso / Shéhérazade / Vocalise en Forme de Habanera / La Valse / Pavane pour une Infante Défunte / Boléro" (Virgin : CUV 5 61263 2 PM516)
Libor Pesek (cond) Arleen Auger (sop) The Philharmonia
1990年代以降に録音された新しい盤では,このペシェック盤は群を抜く秀演です。この盤は他にも『パヴァーヌ』なんかが入ってますが,それらはいずれも水準以上の出来。テンポ取りは全体に遅めで,甘美と言うよりは瞑想的な演奏を意識して作られたもののようです。丁寧な描き込みと清楚で穏健な響きへと神経を集中し,推敲したのが如実に伝わってくる力作です。この盤は有り難いことにソロのアーリーン・オーガー女史の出来も素晴らしい。この両者の端正で禁欲的,瞑想的な演奏/唱の美点が最高度に達するのが,瞑想的な第3楽章の『つれない人』で,この楽章に関しては古今東西の『シェヘラザード』でも最高の出来映えであると断言しましょう。

★★★★☆
"Poème de l'amour et de la Mer (Chausson) : Shéhérazade / Cinq Mélodies Populaires Grécques / Deux Mélodies Hebraïques (Ravel) : L'invitation au Voyage / Phydilé (Duparc) : L'Année en Vain Chasse l'Année (Debussy)" (Seraphim : TOCE-1589)
Georges Prêtre, Jean-Pierre Jacquillat (cond) Victoria de Los Angeles (sop) Orchestre de la Société des Concerts du Conservatorie : Orchestre des Concerts Lamoureux
これはいわゆる古典的銘盤というヤツで,この曲を批評家が批評するときには必ず挙がってくる一枚です。実際この盤のアンへレスの出来は素晴らしく良く,柔和で艶があり,開放的で,甘くなおかつ品格豊か。ブレーズをこの曲における『陰』の代表盤とすれば,これはまさに,『陽』の代表盤。これですっかりアンへレスを過大評価した私はその後,随分彼女の堕盤を買わされてしまいました。テンポ取りは全体に速めで,実はそれなりにクセもある演奏なのですが,助演名人プレートルの面目躍如たる優美な響きが絶妙でそれを感じさせない(そのあたりの手練手管アンセルメ的かも知れません),これまた最上位にランクされる作品の一つといえましょう。カップリング曲も素晴らしい内容。甘美で匂い立つようなフランス的な演奏となると,やはりこの盤を推さない訳には行きません。



シェヘラザードの演奏盤
(小生保有盤より)

指揮者 楽団 独唱者 録音 演奏時間 推薦水準
Ernest Ansermet Orchestre de la Suisse Romande Suzanne Danco 1950 9:00 / 2:28 / 3:10 -
Karel Ancerl Czech Philharmonic Orchestra Suzanne Danco 1957 9:32 / 2:44 / 3:31 -
Thomas Schippers Orchestra Sinfonica di Roma della RAI Regine Crespin 1960 (17:00 in sum) -
Pierre Monteux Concertgebouw Orchestra Victoria de Los Angeles 1963 8:22 / 2:27 / 2:58 -
Ernest Ansermet Orchestre de la Suisse Romande Regine Crespin 1963 9:08 / 2:40 / 3:47 ★★★★
Georges Prêtre Orchestre de la Société des Concerts du Conservatorie Victoria de Los Angeles 1964 8:59 / 2:42 / 3:04 ★★★★☆
John Barbirolli New Philharmonia Orchestra Janet Baker 1967 9:54 / 3:00 / 3:43 -
Leonard Bernstein Orchestre National de France Marilyn Horne 1975 10:57 / 3:08 / 4:36 -
Colin Davis London Symphony Orchestra Jessye Norman 1979 10:28 / 3:15 / 4:48 -
Jean-Claude Casadesus Orchestre Philharmonique de Lille Nadine Denize 1979 10:06 / 2:47 / 4:25 -
Claudio Abbado London Symphony Orchestra Margaret Price 1982 9:47 / 2:54 / 4:11 -
Edo de Waart San Francisco Symphony Orchestra Elly Ameling - 10:08 / 2:59 / 3:54 -
John Pritchard Orchestre Symphonique de l'Opéra National Kiri Te Kanawa 1983 9:23 / 2:43 / 3:24 ★★★☆
Pierre Boulez BBC Symphony Orchestra Heather Harper 1983? 9:27 / 2:45 / 3:30 ★★★★☆
Michel Plasson Orchestre du Capitole de Toulouse Teresa Berganza 1981-83 9:17 / 2:46 / 4:01 ★★★★☆
Armin Jordan Orchestre de la Suisse Romande Rachel Yaker 1987 9:41 / 2:46 / 3:45 -
- Rudolf Jansen (piano) Elly Ameling 1987? 9:44 / 2:58 / 4:09 -
John Eliot Gardiner Orchestre de l'Opera de Lyon Barbara Hendricks 1988 9:24 / 2:48 / 3:54 -
Simon Rattle City of Birmingham Symphony Orchestra Maria Ewing 1989 10:05 / 3:10 / 4:22 ★★★★☆
Yan Pascal Tortelier Ulster Orchestra Linda Finnie 1990 9:53 / 2:58 / 4:05 -
Hanns-Martin Schneidt Berlin Radio Symphony Orchestra Gisella Pasino 1991? 9:52 / 2:55 / 3:34 -
Libor Pesek The Philharmonia Arleen Auger 1992? 11:30 / 3:20 / 4:18 ★★★★☆
Pinchas Steinberg ORF Symphony Orchestra Vesselina Kasarova 1994 10:02 / 3:08 / 4:17 ★★★★
Seiji Ozawa Boston Symphony Orchestra Sylvia McNair 1995 9:11 / 2:42 / 3:38 -

(1st Update date, unknown / Revised 2005. 2. 24 USW)



Warning: This layout is designed by Underground Disc Museum web team
Please contact the webmaster if you would like to refer any information
Copyright ©Underground Disc Museum / 2000-2007

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送