★★★★☆ |
"French
Violin Sonatas : Sonata for Violin & Piano (Debussy) Sonata Posthumous
(Ravel) Sonata for Violin & Piano (Lekeu)"(Denon
: CO-72718)
Jean-Jacques Kantorow (violin) Jacques
Rouvier (piano)
フランスを代表する2人の中堅名手が残したソナタ集です。ヴァイオリンのカントロフは,僅か19才でパガニーニ国際に優勝した名手。そこに至るまでにロン=ティボー,シベリウス,エリザベス,モントリオール国際の全てに優勝した怪童でした。ルヴィエのほうも多言を要しますまい。カザルス,ロン=ティボー,ヴィオッティの各コンクールに入賞した人で,ラヴェルやドビュッシーは得意中の得意です。技量確かなこの両者の顔合わせが,まさしく最良の形で結実したのがこの録音。甘美で少し陰りのあるハスキーな音色がパリ楽壇らしさを感じさせるカントロフのヴァイオリンが圧倒的に素晴らしい。目も眩むようにぴちぴちと跳ね回る技巧と,鋭角的な切れ味,熱情をたたえた演奏。あまり演奏のないこの曲の代表的な名演といって良いのではないでしょうか。この顔合わせを企画したのが日本人スタッフであったという事実。ちょっと誇らしいですね。欲を言えば,ヴァイオリンにもう少しコクや陰影が欲しかった気がしますが,これは贅沢というものでしょうか(演奏時間;13:05)。 |
★★★★☆ |
"Sonate Posthume / Pièce en Forme de Habanera / Sonate pour Violon et Violoncelle / Sonate pour Vilon et Piano / Tzigane" (Ceský Rozhlas - Praga : PR 54016)
Josef Suk, David Oïstrakh (vln) André Navarra (vc) Josef Hála,
Frida Bauer, Vladimir Yampolsky (p)
東西冷戦終結で訪れた平和こそ,世界の人々にとって一番の福音となったのは論を待ちません。しかしながら,こと西側の音楽好きにとっては,平和とともに溢れだしてきた,旧社会主義圏の素晴らしい録音群こそ,最大の福音だったのでは。チェコの大作家スークの実孫にしてスーク・トリオの創設者の手になる『遺作』,『ハバネラ』に,スーク=ナヴァラの『弦楽二重奏』,そして,旧ソ連屈指の名手オイストラフの『ソナタ』と『ツィガーヌ』を併録した本盤などは,好個の例。最初の2品が1979年,1968年にチェコ放送スタジオで記録された以外は全て録音場所も不明ながら,録音年は各々1967年,1966年,1957年。出てきた経緯から拝察するに,スーク及びオイストラフが東欧を楽遊した際に,チェコ界隈で吹き込まれていたものでしょう。確かに3曲目以降は録音環境に難が見受けられ,細部に粗っぽいところが垣間見えるのも事実。それでもいずれ劣らぬ名匠だけに,演奏秀抜。鼈甲肌の美音と,優美でいながら引き締まった音色を駆使する薫り高いスークに,深い立体感と豊かな含蓄を備えた古老の語り口が耳を惹くオイストラフ。ハスキーな音色にジゴロの遊び心を秘め,軽やかで優美に歌うパリ楽壇に比べると,東欧勢による本盤の演奏は佇まいも強面で,洒落っ気もやや控えめですけれど,各々の持ち味で見事に透徹している。優美な歌心を見せるスークの『遺作』や,厳しい趣の中にも,ジプシー踊りの妖しく軽やかなエキゾチズムを垣間見せるオイストラフの『ツィガーヌ』など,最上級の評価を与えられて然るべきです。ちなみに本盤,1994年に一度発売されていたらしく,2度目の再発。そのお陰か値段も安価です。これから上記いずれかの曲を聴こうという貴方!下手な大手レーベルのCCCDで,フニャついた演奏の高額盤を買うくらいなら断固こちらをお求めなされ。決して後悔することはないと保証します。 |
★★★☆ |
"Sonate
Posthume / Sonate / Kaddish / Tzigane / Habanera / Berceuse sur le nom
de Gabriel Fauré"(Harmonia
Mundi : HMC 901364)
Régis Pasquier (violin) Brigitte
Engerer (piano)
ラヴェルの残した2つのヴァイオリン・ソナタが両方楽しめ,しかも滅多に演奏機会のない瀟洒な小品『フォーレの名による子守歌』が聴けるこのCD,演奏陣も素晴らしい手練れです。ヴァイオリンのパスキエは僅か12才でパリ高等音楽院のヴァイオリン部門で一等を得た元神童。その後,同じく高名な兄弟3人でパスキエ三重奏団を結成して活動。ヴァロワに素晴らしいシュミットの器楽作品集を録音してくれました。ブリジット女史も15才でパリ高等音楽院一等。その後ロン,チャイコフスキ,エリザベス国際で優勝した名手です。2人はともにニュー・ヨークとゆかりが深いので,その辺りが邂逅地でしょうか。こちらの演奏はカントロフ盤とは好対照。熱情を帯びたカントロフに対し,遅めのテンポで情感を込めずにさらりと弾かれ,作品への醒めた視線が印象的な演奏です。個人的には余りにあっさりとしていて,淡泊かつ扁平に聞こえます。少し物足りない気がするのですが...(演奏時間;17:13)。 |
(評点は『遺作』のみに対するものです。)