亡き王女へのパヴァーヌ
Pavane
pour une Infante Défunte
概説 :
初期ラヴェルの代表作のひとつ。パリ音楽院在学中に書かれる。 1898年,ラヴェルはフォレの作曲法クラスへ進んだ。この当時,フォレは自らの生徒を連れ,しばしばサン=マルソー夫人(Madame de Saint-Marceaux)宅で毎週金曜日に開かれるサロンへ訪れていた。また,この当時ラヴェルは,エドモン・ド・ポリニャック公夫人(Princesse de Edmond de Polignac)のサロンへも出入りし,イザドラ・ダンカン(米俳優)やアンドレ・ボニエ(詩人)らと交流している。彼女たちは当時の社交界の花形であるとともに芸術の保護者(パトロン)であり,サロンは芸術家の交流の場でもあった。ここでポリニャック夫人に委託されたのが,この作品を生み出すきっかけとなった。事実,大変典雅でサロン音楽風の香りをもったこの作品は,有識者間での冷ややかな扱い*にも拘わらず,こんにちでも広く愛され続けている。 1899年に作曲され,1910年に管弦楽配置。「パヴァーヌ」は16世紀初頭に流行したスペイン起源の宮廷舞曲であり,「王女(infante)」はスペイン語の infanta に由来するところから,スペイン皇女を指すのではないかとされるが,誰を指すのかは不明。一説ではルーヴル美術館蔵のベラスケス(Diego Velázquez:1599-1660)の絵画に描かれたスペイン皇女ではないかともされる**。 しかし実際には,ラヴェル自身はこの標題を暗示的に用いただけのようで,後に「あの王女とは誰なのか」という質問に随分と悩まされたという。ラヴェル自身はこの作品を余り気に入ってはいなかったようで,後年 “シャブリエの影響が顕著で,形式上も貧弱な作品” と述べている。ただし,のちに管弦楽配置を行ったばかりでなく,1922年にはピアノ=ロール録音まで残しているところを見ても,多少なりとも愛着はあったのではないだろうか。サロンでは熱烈に歓迎され,ラヴェルを少なからず驚かせたという。 献呈者はポリニャック夫人。ピアノ譜,管弦楽譜とも自筆譜は所在不明。 |
マルガリータ王女像(1660年) マドリード・プラド美術館 |
女官たち(1656年) マドリード・プラド美術館 |
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注 記 * 例えばOrenstein (1990) p. 37. **ベラスケスはフェリペ4世の財政援助を受け,マルガリータ王女を幼い頃から描き続けた宮廷画家。ゆえに,ここでのスペイン皇女はマルガリータ王女のことと思われる。右2点はその代表作。 ** 1977年になって,ラヴェルがデュラン宛の書簡(1923年9月8日)で触れていたバレエ音楽『皇女の肖像(Portrait de l'infante)』がパリで発見されている(全25頁:個人蔵)。この作品はオペラ=コミークのソニア・パヴロフ(Sonia Pavlov)が委託した,アンリ・マルアーブ台本のバレエ音楽で,ラヴェルに時間がとれそうにない場合は,「亡き王女のへのパヴァーヌ」に着想したというコンセプトのもと,過去に書いた数曲のスペイン風の作品から転用しても良いから,という条件であった。ラヴェルは同書簡中で,「パヴァーヌ」と「道化師の朝の歌」を折衷した作品を構想している。 |
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Reference ニコルス, R. 渋谷訳. 1987. 「ラヴェル−その生涯と作品」泰流社 (p. 82). Larner, G. 1996. Maurice Ravel. London: Phaidon. Orenstein, A. 2003 (1990). A Ravel reader: correspondence, articles, interviews. New York: Dover Publications, p. 246. Orenstein, A. 1991 (1975). Ravel: man and musician. New York: Dover Publications, pp. 21-22 / p. 222. |
作曲・出版年 | ■作曲:1899年 ■ピアノ譜:出版は1900年(ドゥメ社,エシーグ社),管弦楽:出版は1910年(ドゥメ社,エシーグ社) | ||||||||||||||
編成 | ■ピアノ独奏 ■小管弦楽配置版(金管・打楽器抜き):フルート2,オーボエ,クラリネット(第2クラリネットは変ロ),バスーン2,ホルン2(第2ホルンはト調),ハープ,弦5部 | ||||||||||||||
演奏時間 | 約 6分30秒 | ||||||||||||||
初演 | ■ピアノ独奏版: 1902年 4月 5日,プレイエル・ホール(国民音楽協会音楽会)。リカルド・ヴィーニェス(ピアノ) ■小管弦楽版: 1911年2月27日,ヘンリー・ウッド(指揮),紳士のための演奏会(イギリス,マンチェスター) ※1910年12月25日 アッセルマン演奏会 (Concerts-Hasselmans) アルフレッド・カゼッラ Alfred Casella(指揮)を初演に挙げている書籍が少なからずあるようですが,これは誤り。実際は1911年12月25日まで延期されたため,英国初演が世界初演になります(see Larner 1996, p.224)。 | ||||||||||||||
推薦盤 | (評点は「パヴァーヌ」一曲のものです)
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(upload 2001. 2. 23 / Revised: 2005. 2. 22 USW)
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