スペイン狂詩曲
Rapsodie Espagnole


「《狂詩曲》は、すでに《ソナチネ》が私のうちに惹き起していた印象を確かなものにすると同時に、そのスペイン的性格によって私を驚かせた。それは私自身の意図とも一致して―つまりリムスキーが彼の《綺想曲》で行なったこととは反対に―、民俗的要素の単純な適用により成されたものではなかった。そうではなく、むしろ(《祭り》のホタは除くとしても)、スペイン民謡に現れるリズム上、旋法・旋律上、装飾音上の特性を自由に扱うことにより達成されていた。しかも《ソナチネ》とはまったく異なった音楽語法を用いていながら、そこに示される作曲者の個性には変わらぬものがあるのだった・・・」。
− マニュエル・デ・ファリャ −  
曲目 :
@ 夜への前奏曲 prélude à la nuit
A マラゲーニャ malagueña
B ハバネラ habanera
C 祭り feria

 (全4曲)


概説 : 
1907年〜1908年,ラヴェル32才頃の作。彼が初めて出版した本格的な管弦楽作品である。
母親がバスク地方の生まれであり,自らもバスクの血を誇りにしていたラヴェルは,リカルド・ヴィーニェス(ピアノ奏者)やマニュエル・ド・ファリャ(作曲家)と深い交友関係を持つなど,生涯に渡ってスペインとは深い関わりがあった** 。それを反映して,彼はスペインを題材にした少なからぬ数の作品を残したが,わけても歌劇『スペインの時』,管弦楽『スペイン狂詩曲』の2つの大作に携わった1907年は,特に縁の深い年となった。

『スペイン狂詩曲』は歌劇『スペインの時』に着手する直前まで書き進められ,一足早く連弾譜が1907年10月に,次いで管弦楽版は1908年2月に書き上げられた。全体は4曲からなり,第2楽章は『耳で聴く風景』から編曲抜粋されている。スペイン情緒の上で,シャブリエ『エスパーニャ』の官能性と,リムスキー=コルサコフ『スペイン奇想曲』の秀抜な管弦楽書法をともに受け継いだ作品とされる。シャルル・ド・ベリオ*(Charles de Bériot)に献呈。初演はコロンヌ管弦楽団による初演は1908年3月に行われ,好評を博した。

自筆譜はテキサス大学オースチン校人文科学研究センター蔵(全65頁:「夜への前奏曲」10頁,「マラゲーニャ」13頁,「ハバネラ」9頁,「祭り」33頁)。ほかに連弾譜(23頁)をアレクサンドル・タヴェルヌ夫人私蔵。

ラヴェルの母
(1875年頃)



注 記


* 近代フランス音楽史上で,シャルル・ド・ベリオは2名おり,彼らは親子関係である。ラヴェルがパリ音楽院で師事したのは息子のシャルル=ウィルフリード・ベリオ(1833-1914,右写真)であり,近年再評価されつつある父親のオーギュストではない。彼は1833年2月12日パリに生まれ,1887年にパリ音楽院ピアノ科の教授に就任。引退するまで教育者として活動。また当代きってのピアノの名手および批評家としても高名であった。親子でも『ヴァイオリンとピアノ奏者必携の旋律ないし伴奏技法(mélodies élémentaires, ou méthode d'accompagnement)』(1854年)や『ピアノによる伴奏の神髄(l' art de de l' accompagnement applique au piano)』の著書を遺している。作曲家としてはほぼ無名であるが,ピアノ協奏曲や歌曲,管弦楽,室内楽を書いている。1914年10月22日ショー=クサン=ガチネ(Sceaux-en-Gatinais)にて死去。


** ラヴェルが生まれたシブールは,フランスとスペインの国境に近い町である。のちにラヴェルの母マリー・デルアール(Marie Delouart: 1840-1917)と対面したファリャは,そのスペイン語が流暢なことや,彼女が一時マドリードに住んでいたことを知って驚かされ,「そのとき私は,彼女の昔語りの中に分かちがたく含まれるであろう彼の地の歌や踊りによって,幼い息子ラヴェルの彼の地への憧れは間違いなく強められたであろうことが,はっきりと理解できた」(Falla 1979)と述べている。1917年に母を失ったとき,数年間に渡って作曲活動に支障をきたすほど精神的なダメージを受けたラヴェルが,バスク地方出身者であることを誇りにしていた母から,スペイン情緒の薫陶を得たのは,極めて自然と言えよう。


シャルル・ド・ベリオ
Charles-Wilfried Bériot



Reference
ニコルス, R. 渋谷訳. 1987. 「ラヴェル−その生涯と作品」泰流社 (p. 82).

M. De Falla (auth.) D. Urman, D. and J.M. Thompson (trans.). 1979. On music and musicians. London-Boston; Marion Boyars.
Orenstein, A. 1991 (1975). Ravel: man and musician. New York: Dover Publications, pp. 57-59 / pp. 227-228.
Schwarz, B. 2004. Chales-Wilfried Bériot. Grove Music Online (ed.) L. Macy (Accessed [22 02 2005]), <http://www.grovemusic.com>



作曲・出版年 作曲: 1907年10月(連弾譜),1908年2月1日(管弦楽配置)
出版: 1908年(デュラン社)
編成 フルート2,ピッコロ2,イングリッシュ・ホルン,クラリネット(第2クラリネットは変ロ)2,バスクラリネット,(変ロ),バスーン3,サクソフォン,ホルン(ヘ調クロマティック)4,トランペット3,テューバ,トロンボーン3,シロフォン,チェレスタ,ティンパニ(半音階)4,大太鼓,小太鼓,トライアングル,タンバリン,カスタネット,タムタム,シンバル,ハープ2,弦5部
演奏時間 約16分
初演 エドゥアール・コロンヌ(指揮) コロンヌ管弦楽団(1908年 3月15日) 於シャトレ座
推薦盤

★★★★★
"Ma Mère l'oye / Une Barque sur l'Océan / Alborada del Gracioso / Rapsodie Espagnole / Boléro"(Deutche Grammophon : 439-859-2)
Pierre Boulez (cond) Berliner Philharmoniker
ピエール・ブレーズも,ひところに比べると随分表現が穏和・中庸になったものです。ジャズの世界でも,かつて前衛であった御仁(例えばドン・プーレンやアーチー・シェップ)が年を経て丸くなったりしますし,作曲家でもオネゲルやミヨーのように,後年ロマンティックになったりする傾向が多く見られます。「年を経て丸くなる」という言い回しは,真を得たものといえるのではないでしょうか。このブレーズ盤は,まさに彼のそうした円熟の至芸があますところなく発揮された逸品。円熟の極みとも言うべき,スケールの大きな包容力とともに,ブレーズならではの細密な描写がこの上なく好ましい形で絡められ,稀に見る正統的な,充実した作品となっている点は,まさに特筆すべきものと申せましょう。

★★★★★
"Artistes Répertoires - Munch :
"Daphnis et Chloé / Pavane pour une Infante Défunte / Boléro / Rhapsodie Espagnole / La Valse / Ma Mère l'oye (Ravel) : L'apprenti Sorcier (Dukas)"
(BMG : 74321 846 042 LC 00316)

Charles Munch (cond) Boston Symphony Orchestra : New England Conservatory & Alumni Chorus
今世紀前半のフランスを代表する指揮者シャルル・ミュンシュとボストン響による,ラヴェルの管弦楽作品集。ミュンシュのドビュッシーやラヴェルは速めのテンポが多く,普通なら表現ががさつになってしまうところ。しかし,彼の盤はどれも抑揚豊かで匂い立つような暖かい香気があります。ブレーズの理知的な解釈とは反対に艶めかしさと香気をたたえ,「古き良きフランスの」という枕詞の似合う,伸びやかな演奏です。

★★★★☆
"Boléro / La Valse / Rapsodie Espagnole / Alborada del Gracioso" (CBS :30DC 707)
Lorin Maazel (cond) Orchestre National de France
『スペインの時』の録音で印象主義ファンにもお馴染み,マゼールのラヴェルです。マゼールは最近,ウィーン・フィルと組んでラヴェルを再録したようですが,貧乏な小生には手が回りません。この旧録を一言で形容すると,すっきりとした流麗なラヴェルです。『道化師の朝の歌』などでは,余りにすっきりし過ぎていて淡白に聞こえてしまうものの,反面それが適度な範囲に収まった『スペイン狂詩曲』は秀演です。恐らくは,明晰ですっきりとした中に,慎みのある耽美さを表現するのがマゼールの意図なのでしょう。
 (評点は『スペイン狂詩曲』のみに対するものです。)

(2001. 05. 20 / Revised 2005. 2. 22)







Warning: This layout is designed by Underground Disc Museum web-team
Please contact the webmaster if you would like to refer any information
Copyright ©Underground Disc Museum / 2000-2005

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送