前奏曲集(第二巻)
Préludes, Deuxième Livre


曲目(括弧内が副題。主題は『 』部分)
@ (brouillards)
『中庸の速さで この上なく粒の揃った音で軽快に』・・・従来の概念に当てはまるいかなる主題・展開・対位法・声部の主従関係もない曲。
A 枯葉(feuilles mortes)
『ゆっくりと,憂いの色をうかべて』・・・「うらぶれて ここかしこ さだめなく 飛び散らう」(ヴェルレーヌ詩)に着想か。
B 酒の門(la pueta del Viño)
『ハバネラの動きで 極度の荒々しさと情熱的な優しさとを唐突に対照させて』・・・「練習曲」を思わせる作品。ファリャから贈られたグラナダのアルハンブラ宮殿にある「酒の門」の絵葉書に着想して作曲されたといわれる,ハバネラのリズムを用いた曲。
C 妖精たちは妙なる踊り手です(les fées sont d'exquises danseuses)
『急速かつ軽快に』・・・愛娘がこよなく愛した「ピーターパン」(J. M. バリー)仏語訳の本にある,蜘蛛の巣の上で蜘蛛の弾くチェロに合わせ踊る妖精の挿し絵(A. ラッカム絵)に霊感を得て作曲か。
D ヒース(の茂る荒野 : bruyères
『静かに,優しく情感をあらわして』・・・郷愁をあらわした作か。全音階と旋法的表現で書かれる。
E 奇人ラヴィーヌ将軍(général Lavine eccentric)
『ケーク・ウォークの様式と動きで』・・・黒人音楽(ジャズ)のリズムを用いて作曲。「ラヴィーヌ将軍」の由来は,1910年にパリのマリニュイ座で当たりをとったアメリカの喜劇俳優エドワード・ラ・ヴィーヌ(1946年没)をもじったとされる。
F 月夜に裁判をひらく露台(la terrasse des audiences au clair de lune)
『ゆるやかに』・・・童謡「月の光に」の旋律をもとにしたものか。ピエール・ロッティとルネ・ピュオーが『ル・タン』誌に寄せた,英統治下インドの紀行文に着想か。
G 水の精(ondine)
『スケルツァンド』・・・C同様,ラッカムの挿し絵に着想か。回音およびその拡大された反復音を効果的に用いる。
H S.ピクウィック頌礼賛(hommage à S. Pick Wick)
『荘重に』・・・英国国歌(god save the queen)の断片が登場。ディケンズの一編に登場するサムエル・ピクウィックを皮肉った?
I カノプス壺(canope)
『ごく静かにほのぼのと悲しげに』・・・「カノープ壺」は,人または獣の頭像を蓋の意匠に用いた,古代エジプトの土器(雪花石膏製の骨壺)。
J 交叉する三度(les tierces alternées)
『中庸を得た活気のある速さで−やや活気を増して−』・・・「練習曲集」を思わせる3度のエチュード。ハ音を中心音とした三度の平行和音で構成される。
K 花火(feux d'artifice)
『中庸を得た活気のある速さで 軽やかに,音の粒を揃え,遠くで響くかのように』・・・パリ祭(7月14日)の花火に着想か。終局でフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」が引用される。

 (全12曲)



概説 : 
比較的短期間に書かれた第一巻に対し,1910年から1913年まで足かけ4年をかけて作曲された,ドビュッシー晩年を代表する名品。個々の楽曲同士に調性の連関などの関連性はないにも拘わらず,合計24曲の前奏曲集という形式をとったところから,ショパンへのオマージュを秘めたものとも解釈される。各曲には,それぞれ示唆的な副題が付けられ,この作品以降に書かれた「練習曲」(示唆的な副題無し)と,これ以前の作品(示唆的な題が主題となる)との間の過渡期をなしている。同時期の作品には「聖セバスチャンの殉教」(1911),「遊戯」(1912-1913),「管弦楽のための映像(「ジーグ」のみ)」(1909-1912)がある。自筆譜はフランス国立図書館蔵。




作曲・出版年 1910年−1913年にかけて作曲。1913年4月19日出版,デュラン社。
編成 ピアノ独奏
演奏時間 約37分(全体)
初演 リカルド・ヴィーニェス(第 4, 7, 12曲=1913年4月5日,於国民音楽協会),ドビュッシー(第7,9,10曲=1913年6月19日,於ドビュッシー特別演奏会),ジャヌ・モルティエ(第2,3,6,8,10=1913年12月5日,会場不明)。1,5,11曲については不詳。
推薦盤

★★★★★
"12 préludes, 2'e livre / Berceuse Héroïque / Page d'album / Élégie" (Craves: CD 50-8607)
Jean-François Antonioli (piano)
ドビュッシーの前奏曲集,分けても第二巻は,古今東西最も至難の作品集だと,私は心密かに確信しております。テクニック,解釈,タイム感など,あらゆる要素が完璧に揃っていなければ,決して満足に完奏しおおせることの出来ない作品集。それだけにこの作品集は,作曲家ドビュッシーが築き上げてきたあらゆる語法が集大成された珠玉の金字塔といえましょう。指揮者としても知られるアントニオリの演奏は理知的で明晰。数多ある同曲集の中でも,その高雅な品格と筆致,深い思索性・内省性をたたえたタッチの美しさ,研ぎ澄まされていながらみずみずしい潤いを失わない技巧に富み,古今東西あらゆる前奏曲集の中でも最上位に立つ,奇跡の名演奏。耳をそばだてさせずにはおかない,優れた集音も見事です。

★★★★☆
"12 préludes, 2'e livre" (Denon : 38C37-7043)
Jacques Rouvier (piano)
フランスの中堅ジャック・ルヴィエはドビュッシーのピアノ全集を録音していますが,技巧に走る傾向が顕著で,すっきりとしてはいるものの,印象主義ならではのニュアンスや面白みはほとんど捉え切れていない凡庸なものが少なくありません。そのような中,この前奏曲集だけが突出した名盤というのは,まことに奇妙な事実です。アントニオリ盤に比べるとやや録音が劣り,ペダル捌きが雑なところがあるのは確か。しかし,アントニオリにはない個性的な解釈が光ります。分けても『水の精』と『交叉する三度』は,アントニオリのそれとはまるで違う独自の解釈を見事に成立させています。アントニオリと並んで前奏曲集を代表する演奏です。

★★★★☆
"Préludes Livres I et II" (Harmonic : H/CD 8506-7)
Alain Planès (piano)
アラン・プラネスは1948年仏リヨン出身。12才でリヨン音楽院ピアノ科一等。勲章をぶら下げてパリ音楽院へ入学し,ドワイヨンやフェブリエのお弟子さんとなったほか,アメリカでもジェルギー・シェベックやウィリアム・プリムローズらに師事して研鑽を積みました。当初はクリーブランドでピアノを教えていたそうですが,程なく欧州へ舞い戻り,ブレーズがアンサンブル・アンテルコンタンポランを結成した際に加入。1981年までピアノ弾きの座を勤め上げました。まだ才気バリバリの怖いブレーズと渡り合った実績をお持ちだけに,この人も顔はめちゃんこおっかないです。普段はハイドンやシューベルトを主に録音している彼も,どういうわけかドビュッシーだけは偉くご執心。特に『前奏曲集』は余程好きなのか,1985年と1999年の2度も録音し,しかも前者はルモンド誌とディアパゾン誌で最高点,後者はルモンド誌の年間最優秀CDに選定されたくらい,ご自身の持ち味ともぴったんこです。本盤はその一度目の録音。真綿を包み込むように丸く,訥々と円味を帯びた打鍵で,コロコロと弾く。ペダリングに頼らず,即興的なリラクゼーションを失わない情感表現は極めて自然。無駄なエフェクトを使わず,生々しい質感を捉えた剛胆な録音も素晴らしい。コクのたっぷり利いた,炭焼き爺さんのように味わい深い陰影のあるドビュッシーっぷりは,2度目の録音から伺えるとおりのもの。10年若いこの録音は,打鍵もさらに丸く,さらに軽やか。特に『第1巻』は独壇場で,このレベルに到達している演奏は,殆ど皆無に近いんじゃないでしょうか。御大フランソワの前奏曲集が,ヨイヨイな上に一曲欠け落ちている現状を思えば,フランソワ方向のベクトルに空いた巨大な穴を埋めるに値する,演奏史上空前レベルの録音ではないかと感嘆しました。欲を言えば,敢えてこの難曲を前にペダリングを避け,軽やかなタッチで運指のコロコロ感を最大限に生かそうとする演奏態度ゆえに,細かい音符上のアラが覗くのは本当に惜しい。それを相殺してもなお,圧倒的な魅力を放つこの演奏。恐らく,多少のアラは覚悟の上と聴きました。断じて加点法で聴くべきです。甲種大推薦。

★★★★☆
"12 préludes, 2'e livre" (Saga : EC 3347-2)
Livía Rév (piano)
ハンガリー生まれのリヴィア・レーヴは,我が国ではほとんど無名のピアニスト。しかし,僅か 9才にして神童コンクールでグランプリ,さらにはフランツ・リスト・アカデミーのグランプリを獲得し「リスト婦人(Madame Liszt)」の異名をとったほどの才媛です。技巧闊達かつ切れ味鋭いドビュッシーで,この前奏曲集などはそうした彼女の持ち味が遺憾なく発揮された怪演。上記二枚と比べるとかなりアクの強い演奏ですが,出来そのものはアントニオリ盤やリヴィエ盤に引けをとらない内容であると思います。なお,彼女は本録音から10年後に,2度目の全集録音をハイペリオンにも残しますが,そちらはお年を召されたためか,出来はかなり落ちます。

★★★★☆
Claude Debussy "Preludes, Book1, 2" (EMI :7243 5 73535 2 6)
Cecile Ousset (piano)
これはひところ近代好きの間では結構な話題になったセシル・ウーセの2枚(+半枚)からなるドビュッシー選集のひとつ。演奏者のウーセは1936年生まれ。パリ音楽院ピアノ科を一等で卒業した才媛で,木の実ナナ似の豪胆そうなおばさんです。このドビュッシーは50才の時の録音。録音がやや残響多めなため,ペダルがベタ踏みに聞こえますが,良く良く聴くと中庸を得た曲解釈といい,メリハリの利いた技巧といい,極めて良くコントロールされた秀演でびっくり。値段を考えれば充分甲種お薦めに近いレベルの演奏だと思います。それだけに,ホール録音と思しき,残響が不自然に多く重い空気感が伝わる集音は返す返すも残念。もう少し録音が良いと好かったんですがねえ。

★★★★
Claude Debussy "Préludes libre 2 / Elégie / Children's Corner" (Pianovox : PIA 538-2)
Alice Ader (piano)
海外では高い評価を受けているアリス・アデル女史のドビュッシーです。正直言って小生は最初,このCDを余り評価していませんでした。しかし,聴けば聴くほど含蓄のある演奏です。既に初老の境に至りつつあるご様子ですが,技巧はそれなりに確かで,切れとメリハリを大事にした解釈は,リヴィア・レヴやゾルタン・コチシュあたりに近いベクトルの持ち主。異様にストロークの大きいルバートで揺さぶりを掛けておいて,スパッと無音の時間とを使って絶妙の間合いを取り,立体的で振幅の大きい音場を構築するスタイルが持ち味です。船酔いにでもなりそうなほどテンポが変化するそのピアノ,かなり異色の演奏で好みは分かれますが,斬新な感覚に溢れた個性的な演奏だと思います。

★★★★
"L'integrale Préludes" (Harmonia Mundi : HMC 901695)
Alain Planès (p)
名ピアニスト,ジャック・フェヴリエの最後の弟子の一人プラネスは,日本にちょくちょくやってくる親日家でもあります。パリ/リヨン音楽院で,ともに一等賞を得て卒業したほどの腕前というだけに,有名ではなくとも技巧的には相当達者。以前来日した折に吹きこんだDENON盤では冴えない演奏をしていましたが,この盤は強力で,確信に満ちたアクセント,ペダルを抑え硬めのタッチを活かしたアプローチの巧みさには目を見張るものがあります。運指にアラが若干ありますが,彼のドビュッシーでも出色の出来映えと申せましょう。

★★★★
"L'integrale Préludes" (London: POCL-4397)
Friedrich Gulda (p)
グルダは今世紀前半に『ウィーン三羽烏』と謳われたピアノの巨匠にして,ジャズも嗜むアヤシイおっちゃんです(当館「ジャズ館」のセルドン・パウエル参照)。しかし,名匠の列へ名を連ねるだけに,技巧的には完成されたものがあり,またドイツのピアニストよりは融通が利く演奏をするのが魅力。これは非常に珍しい彼のドビュッシー録音。プラネス盤同様,ややドイツ訛りの固い演奏ですが,技巧闊達を利して,鞭のようにしなるアルペジオとルバートは秀抜の部に入るものでしょう。









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