前奏曲集(第一巻)
Préludes, Premièr Livre


曲目
@ デルフィの舞姫たち(danseuses de delphes) lent et grave
「ゆっくりと荘厳に」・・・ルーブル美術館蔵の古代ギリシアの舞姫を描いたレプリカ彫刻に着想。
A (voiles) modéré
「中庸の速さで」・・・標題の『帆』には,ヴェールの意味も含む。
B 野をわたる風(le vent dans la plaine) animé
「生き生きと」・・・かつて手がけたヴェルレーヌ詩『そは,やるせなき』にあったファヴァールのエピグラフ「風は野で,息を止める」に由来がある。
C 音も香りも夕べの大気を漂う(les sons et les parfums tournent dans l'air du soir) modéré
「中庸の速さで」・・・標題はボードレール詩『夕べの諧調』からの引用句。
D アナカプリの丘(les collines d'Anacapli) très modéré
「きわめて中庸に,溌剌と」・・・アナカプリは,イタリアのナポリにあるカプリ島の丘。タランテラ舞曲のリズムを導入。
E 雪の上の足跡(des pas sur la neige) triste et lent
「悲しみを込めて,ゆっくりと」・・・『ペレアスとメリザンド』中に同じ台詞が登場する。
F 西風の見たもの(ce qu'a vu le vent d'ouest) animé et tumultueux
「活発に,騒然と」・・・アンデルセン童話に着想か。高度な技巧を要する。
G 亜麻色の髪の乙女(la fille aux cheveux de lin) très calme et doucement expressif
「なるだけ静かに,やさしい表情を込めて」・・・作者が若い頃に作曲した同名の曲(ルコント・ド・リールの『古代詩集』の中の「スコットランドの歌」に着想か。『前奏曲集』中最も人気があり,しばしば独立して演奏される。
H 遮られたセレナード(la sérénade interrompue) modérément animé
「中庸を得た活発さで」・・・スペイン舞曲「ホタ」のリズム。ギター独奏を思わせる書法。
I 沈める寺(la cathédrale engloutie) profondément calme
「深い静けさを以て」・・・【夜な夜な男を替えては遊び,その男を次々殺しては海に投げ捨てていたイスの街の王グラドロン王の娘ダユを怒った神が,イスの街を沈ませた】とのブルターニュの民間伝承に着想。海に没した寺院が姿をあらわすものの,再び海中へと没する。
J パックの踊り(la danse de puck) capricieux et léger
「むらっ気たっぷりに,軽快に」・・・シェイクスピア『夏の夜の夢』に登場する妖精パックのユーモラスな踊り。
K ミンストレルズ(minstrels) modéré
「中庸な速さで」・・・顔を黒人に似せて黒人舞踊を踊る「ミンストレル・ショー」は当時,パリで一世を風靡した。これに着想。

 (全12曲)



概説 : 
1910年に短期間で作曲された,ドビュッシー晩年の作品。既に1903年には『ペレアスとメリザンド』(1902年)の成功によって作曲家としての評価も確立し,翌年にはレジオン・ドヌール賞を受賞。押しも押されぬ大家となっていたドビュッシーだが,この当時は既に病気も徐々に進行し,経済的にも豊かとは言えない状態に置かれていた。出版元のジャック・デュランも「この病に苦しむ作曲家がすぐに売れる作品に手を回すことができて,ほっとした」と懐述している。初演の際も作品集中から数曲ずつが選ばれて演奏されたように,『前奏曲集』は必ずしも同時に演奏されることを意図したものではなく,作曲者自身も「全ての曲が上出来だとは思わない」とコメントしている。のちに出版される第2巻と並んで24曲となるが,調性を意識したものではなく,とくに第1巻はそれまで作曲者自身が培ってきた音楽的語法の集大成的な性格が強く,第2巻は新たなる音楽的表現を目指した実験的性格が強いとされる。1913年に作曲者自身が録音したピアノ・ロール版があり,1985年にはロイ・ホワット(Roy Howat)氏の監修による別版も出版されている。10曲を納めた自筆譜はアルフレッド・コルトー氏が生前に所蔵。




作曲・出版年 1909年12月7日〜1910年2月4日作曲。出版1910年5月,デュラン社。
編成 ピアノ独奏
演奏時間 約43分(全体)
初演 1910年5月25日,作曲者(1,2,10,11曲)於独立音楽協会演奏会。1911年1月14日,リカルド・ヴィニェス(5,8,9曲)於国民音楽協会演奏会。1911年3月29日,作曲者(3,4,6,12曲)。
推薦盤

★★★★★
"Complete Piano Music vol. 1 :
24 Préludes / L'Isle Joyeuse / Images Livre 1 & 2 / Estampes / Children's Corner / Pour le Piano / Deux Arabesques / Mazurka"
(Philips : 438 718-2)

Werner Haas (piano)
ドビュッシーを手っ取り早く揃えたい,分かりたいという方には,このハースの全集は最もお買い得感の高いものだと思います。あまりに奇を衒うところがないので,時にすっきりし過ぎた表情が情感不足に,真っ当すぎる解釈が皮相的に感じられるところがあるものの,個性と称した独善的な解釈は微塵もありません。めざましい運指技巧と,切れ味良く磨き抜かれたタッチ,すっきりと洗練された曲解釈で,最もオールラウンドな選集といえるのではないでしょうか。作品の持つ内省的かつ観念的な傾向が,ややハースとの違和感を露呈する『第2巻』に比して,この『前奏曲集第1巻』は,上記ハースの持ち味が大変好ましく曲想と和合した,堂々たる横綱相撲。まず一枚という方には是非。

★★★★★
"Préludes, 1'er Livre / Jeux" (Pianovox : PIA 517-2)
Alice Ader (piano)
アデル女史は1999年に2枚のドビュッシー録音を出しました。この人の詳しい経歴は浅学のため知らないのですが,曲の深層にまで降りきって,縦のベクトル(強弱)と横のベクトル(時間軸)の両方にエキセントリックであろうとし,いわば曲の持つ現代音楽的な側面に焦点を当てた,大変冒険的で斬新な演奏です。緩やかな部分では異様に長めの間をとってペダルを踏み,徹底的に残響音を鳴らす。その一方,技巧的な部分では打鍵の大胆な強弱と精緻な間によって,立体感を際立たせようとする。それらが決して独善的ではなく曲の新しい流れを作り,全体の流れの中で不協和とならない。正統派のハース盤とはまさしく好対照。霊感に満ちた演奏と言えましょう。曲を知ることを目的にするならハース盤,曲をアナリーゼするならぜひこのアデル盤を。特にピアノ弾きの方には,この盤は極めて豊かなものを含みます。

★★★★★
"Préludes Livres I et II" (Harmonic : H/CD 8506-7)
Alain Planès (piano)
アラン・プラネスは1948年仏リヨン出身。12才でリヨン音楽院ピアノ科一等。勲章をぶら下げてパリ音楽院へ入学し,ドワイヨンやフェブリエのお弟子さんとなったほか,アメリカでもジェルギー・シェベックやウィリアム・プリムローズらに師事して研鑽を積みました。当初はクリーブランドでピアノを教えていたそうですが,程なく欧州へ舞い戻り,ブレーズがアンサンブル・アンテルコンタンポランを結成した際に加入。1981年までピアノ弾きの座を勤め上げました。まだ才気バリバリの怖いブレーズと渡り合った実績をお持ちだけに,この人も顔はめちゃんこおっかないです。普段はハイドンやシューベルトを主に録音している彼も,どういうわけかドビュッシーだけは偉くご執心。特に『前奏曲集』は余程好きなのか,1985年と1999年の2度も録音し,しかも前者はルモンド誌とディアパゾン誌で最高点,後者はルモンド誌の年間最優秀CDに選定されたくらい,ご自身の持ち味ともぴったんこです。本盤はその一度目の録音。真綿を包み込むように丸く,訥々と円味を帯びた打鍵で,コロコロと弾く。ペダリングに頼らず,即興的なリラクゼーションを失わない情感表現は極めて自然。無駄なエフェクトを使わず,生々しい質感を捉えた剛胆な録音も素晴らしい。コクのたっぷり利いた,炭焼き爺さんのように味わい深い陰影のあるドビュッシーっぷりは,2度目の録音から伺えるとおりのもの。10年若いこの録音は,打鍵もさらに丸く,さらに軽やか。特に『第1巻』は独壇場で,このレベルに到達している演奏は,殆ど皆無に近いんじゃないでしょうか。御大フランソワの前奏曲集が,ヨイヨイな上に一曲欠け落ちている現状を思えば,フランソワ方向のベクトルに空いた巨大な穴を埋めるに値する,演奏史上空前レベルの録音ではないかと感嘆しました。欲を言えば,敢えてこの難曲を前にペダリングを避け,軽やかなタッチで運指のコロコロ感を最大限に生かそうとする演奏態度ゆえに,細かい音符上のアラが覗くのは本当に惜しい。それを相殺してもなお,圧倒的な魅力を放つこの演奏。恐らく,多少のアラは覚悟の上と聴きました。断じて加点法で聴くべきです。甲種大推薦。

★★★★☆
"L'oeuvre pour Piano" (Erato : 4509-94827-2)
Monique Haas (piano)
正直申し上げて,これまで余り評価していなかったアースのドビュッシー全集。しかし,久々に取り出して聴いてみますと,実は案外好演奏でした。この盤にミソを付けた最大の要因は,エラートの録音技術の拙さです。ペダルの微妙な残響を駆使して精妙な世界を構築しなければならないドビュッシーの場合,中域がだらしなく膨らみ,音が割れているこんな録音では音は濁り,最悪の結果を導くことになります。はっきり申し上げて折角の快演が台無し。汚いピアノの響音だけは覚悟してお求めください。それを除くとこの盤,女性らしい柔らかな感情表現が魅力の快演です。晩年の録音でもあり,やや踏みすぎのペダルと細かい運指に粗がありますが,セカンド・チョイス以降なら,これも選択肢として有りです。

★★★★☆
Claude Debussy "Preludes, Book1, 2" (EMI :7243 5 73535 2 6)
Cecile Ousset (piano)
これはひところ近代好きの間では結構な話題になったセシル・ウーセの2枚(+半枚)からなるドビュッシー選集のひとつ。演奏者のウーセは1936年生まれ。パリ音楽院ピアノ科を一等で卒業した才媛で,木の実ナナ似の豪胆そうなおばさんです。このドビュッシーは50才の時の録音。録音がやや残響多めなため,ペダルがベタ踏みに聞こえますが,良く良く聴くと中庸を得た曲解釈といい,メリハリの利いた技巧といい,極めて良くコントロールされた秀演でびっくり。値段を考えれば充分甲種お薦めに近いレベルの演奏だと思います。それだけに,ホール録音と思しき,残響が不自然に多く重い空気感が伝わる集音は返す返すも残念。もう少し録音が良いと好かったんですがねえ。

★★★★
"Complete Piano Works" (Denon : COCO-75160-63)
Jacques Rouvier (piano)
フランスの中堅ジャック・ルヴィエはドビュッシーのピアノ全集を録音していますが,技巧に走る傾向が顕著で,印象主義ならではのニュアンスや面白みはほとんど捉え切れていない凡庸なものが少なくありません。いっぽう『第1巻』では,彼の持ち味が程良く面白みのある中庸な表現を生み出しました。全体としては,過度の演出を避けた流麗な演奏。標準的な秀演といえましょう。しかし,細かい休止やペダルによる拍の置き換え,打鍵の表情づけなど,リズミックな側面でさりげなく斬新な主張が隠されており,特にその並外れて現代的なリズム感の出たHJKの出来は秀抜です。人によってはゴツゴツ感に乏しく面白みが感じられないかも知れませんので,そういう方には同趣向で,いっそう緩楽曲により実験的な試みを含むロジェの第1巻あたりのほうが宜しいかも知れません。全体にお薦めしやすい『第1巻』です。なお,ご覧のCDは全集ですが,『前奏曲全集』をなす分売もあります。

★★★★
"L'integrale Préludes" (Harmonia Mundi : HMC 901695)
Alain Planès (piano)
名ピアニスト,ジャック・フェヴリエの最後の弟子の一人プラネスは,日本にちょくちょくやってくる親日家。パリ/リヨン音楽院で,ともに一等賞を得て卒業したほどの腕前だけに,無名なのが勿体ない,屈強打鍵と硬派な陰影感を持つ名手。確信に満ちたアクセント,ペダルを抑え硬めのタッチを活かしたアプローチの巧みさには目を見張るものがあります。速いテンポでの淀みないアルペジオを要求されるB,D,Fなどではお年のせいか運指にアラが出てきますが,そのぶん緩楽曲のCEが良い。年とともに深みを増した訥々感のある立体的表現は,齢を重ねた木こりの爺さんのような,渋い風合いの魅力があります。あらかた聴いたという方には,発見の多い演奏としてお薦め。

★★★★
"Preludes, Book 1 / Tarantelle Styrienne / Hommage à Haydn / Children's Corner / Page d'album / La plus que Lente / Élégie" (Saga : EC 3377-2)
Livía Rév (piano)
女リストの異名を持つハンガリー出身の才女,リヴィア・レーヴ女史が1980年,サーガに残した至宝。彼女一度目のドビュッシー・サイクルの一枚です。おそろしく出来の良い『第2巻』に比べるとペダルはベタ踏み,硬い表情で癖のある東欧的な曲解釈で好みも分かれるでしょうが,Fを筆頭に,異様に鋭く強烈な打鍵で持ち前の豪腕ぶりを遺憾なく見せつけた怪演として,忘れられない一枚。マイナー・レーベルだったからなのか,東欧で技術革新が遅れていたからか,本シリーズは録音も悪い上にあまり出回ることなく,半ば忘れ去られた状態。勿体ない。ハース,グルダ,ヴェデルニコフ方向の,輪郭線がはっきりした演奏がお好きな方は,まさしく穴盤として目を開かされることでしょう。

★★★☆
"Images 1'er Livre / Préludes, 1'er Livre" (RCA : 74321 606292)
Michel Dalberto (piano)
エラートにサティの録音も残しているフランスの中堅,ミシェル・ダルベルトの珍しいドビュッシー録音。れっきとしたフランス人ですが,フランスものをソロで全面録音したのは,これが初めてなんだそうです。そんな彼の前奏曲集は,ドイツものの録音が多いという嗜好および経歴が示す通りくっきりとした輪郭線と,武骨な打鍵が特徴。しかし,レーヴやハースなど他国人と違いルバート多め。要所にスタッカートで強いアクセントを配して独自性を演出し,明瞭でいながらほどほどに感覚的な解釈も含めた内容と言えましょう(Kに顕著で,これは秀逸演奏です)。目立つのは当然粒立ちの良いアルペジオのBDなどになりますが,ハース盤を聴いてしまうとタッチが雑で,それほど溜飲は下がりません。むしろこの人の好さは緩楽章のほうにあるような気がします。上記アデルに一脈通じる振幅の大きな演奏でありながら,感覚的な演奏に溺れず,程々に作品と距離を置いた内容です。ドイツもの好きならではの技巧ちないルバート感覚は,人によっては作為的に聞こえるでしょうが,2枚目以降としては,それなりの推薦に値する演奏だと思います。余談ながらこの盤に関しては併録の『映像』のほうが,彼の怪演ぶりが良く 出ていると思いますが,お持ちの方,如何でしょうか。

★★★☆
"Préludes, 1'er Livre / Images Oubliées" (Channel Classics : CCS 4892)
Jos van Immerseel (piano)
おまけとしてもう一つ,一風変わった趣向のものを。奏者のインマゼールはアントワープ生まれ。ハープシコード,ピアノ,オルガンを王立フィンランド音楽院で学び,1973年のパリ国際ハープシコード・コンペで優勝した後,アントワープ音楽院で教鞭を執る傍ら指揮者としても活躍している人物。鍵盤関係では専ら古楽器演奏を専門にしており,エラール(Erard)社の1897年製ピアノで録音されたこのCDはそんな彼の面目躍如というところでしょう。普通のピアノより音が円やかで,かつてはこういう風に鳴っていたんだなとフムフムいうためのCDです。演奏は技巧確かで安定していますが,古楽演奏家で教育者らしく些か教条的で,推敲の跡が見え見えの演奏なのが鼻につくのも事実。「その時代の曲はその時代の楽器で」というマニアな方以外は得るところが乏しいです。一般の方には上記の各推薦盤をお薦めします。

(2002. 1.12)







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